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葵 幸仔と言う名の少女が死んで既に5年が過ぎた。
自殺を斡旋していた彼女にとってそれはだからどうと言う事は無いのだけれど、葵の死は特別なように感じられていた。
たぶん…
いや
間違いなく気のせいなのだが彼女は…葵 倖子は梨恵の記憶に確かに残って(居る)のだ。
今まで死んだ人間の事など頭に留めて置いた事などない梨恵が葵 倖子の事だけ忘れずに覚えている。
彼女が異常者であったから。
彼女の言い分としては、彼女は異常と言えば異常、で以上だ。
自殺志願者が正常なワケがない。
しかしながら彼女は死に恐怖する正常な感性の持ち主であった。
この矛盾が梨恵には心に引っかかっていた。
いつものスタイルとの違いによる違和感のようなものなのかもしれない。
そう思うようにしているが……しっくりこない。
「友香は葵って女の子覚えてる」
土曜の深夜1時梨恵は友人である友香に尋ねた。
「覚えてるよ。最近も彪兎くんが来たからね」
なぜこんな深夜かといえば予想通り営業時間外に髪を練習がてら切ってもらっているからだ。
もちろん練習相手だ。支払いが発生するはずもない。
「クス……梨恵髪切りに来ると2回に1回くらい彪兎くんか葵ちゃんの話してるよ」
「そうだったかな」
梨恵は考えた。
いや……考えるのを止めたのだ。
なぜなら考えてもしょうがないのである。
答えなんてものはすでに与えられているのだ。
「私あの子たち好きだわ」
「まったく。それも何回目だっての」
梨恵は雑誌を手に取った。
落ちる髪の毛が煩わしい。
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