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あの形容し難い放課後のやり取りから一夜明けた。
朝から変わらぬ気だるさと共に、いつものように通学路を通り、我等が榊沼高校の昇降口で奇跡は二度起こらないという事を諭されていると……
「春日君、おはようございます」
声をかけたのは同じく榊沼高校の2年4組、ツンデレ1年生の十六夜よなかちゃんだった。 クラスが違う彼女だが、ちょうど靴箱が向かいにある為に出くわす事もあった。 挨拶も変わらずしっかりしている。
だが、しかし……
「ダメだな。 そんなんじゃダメダメだ、十六夜さん」
「え……?」
やれやれ……いったいこの子は昨日なんと言った?
ツンデレになりたい。 至上最強天上天下唯我独尊のツンデレに、と言っていただろう。 だが見てくれ、見られないのなら感じてくれ。 今の挨拶はなんだ?
呆れている俺にハッとした彼女もようやく気が付いたようだ。 そう、キミはもう今までのキミじゃない。
「えっと……おはよう……?」
おぉ、ダメだこりゃ。 ツンデレらしい挨拶も出来ないとは先が思いやられる。
「仕方ない。 手本を見せてやろうじゃないか」
しかしながらツンデレらしい挨拶か……
そんな時、悩む俺の視線の先に1人の女生徒がやってきた。 丁度いい、アイツなら多少の悪ふざけも通じる。
そう、今まさにノコノコとやって来るのは、正式名称 腐れ縁。 通称 幼なじみである『井上 利江(いのうえ りえ)』だ。
高校に入ってから髪を染めたらしく、なんか垢抜けた感じになった彼女に、俺はそれと無く近付き……
「ふん……おはよ……」
「朝からキモいわね、おはよ」
ぐさっ。
ほら、こんな風に昔から俺達は仲良しなんだ。
「よなかちゃん、おはよう。 朝からこんな奴に絡まれて災難ね」
「え、あ……おはようございます」
にっこりと笑顔を浮かべる利江に、十六夜さんもひとまずツンデレ無しの挨拶を交わす。
傷薬って心の傷には効かないのかな?
後で保健室に行ったらメンソレ○タムの表記を確認しよう。
「ほら、ホームルーム始まるわよ。 さっさとしなさいよね」
それだけ言い残して利江はさっさと教室へ行ってしまった。 冷たい奴め、昔はあんなんじゃなかったのに……
「えっと……どっちをお手本にしたら良かったですか?」
「いや、あれはツンデレなんかじゃない。 勘違いしちゃダメだ。 あれはツンツンだ」
「は、はぁ……」
まったく、朝から酷い仕打ちだよ。
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