ツンデレは1日にして成らず

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     マルコメは1人見かけたら20人はいると思え。  そんな格言が頭をよぎってしまう程に異様な光景だった。  思わず十六夜さんを背で庇うように立つ俺はまさに内藤、いやナイトである。  周囲の生徒達が遠巻きに俺達を見つめるなか、マルコメ達の先頭に立つマルコメが俺の前へと一歩を踏み出す。 「春日 仁だな?」 「違うけど?」 「そうか……話は部室で聞こう」  話を聞けよ。 「伊藤、内藤、斉藤、コイツを捕まえろ」 「「「御意」」」  いたんだ、内藤。 ってか藤ばっかりだな。 なんだ御意って。  内心でツッコミを連続させたが……  なんにせよ、ピンチである。  小麦色に焼けた肌、漂う汗の匂い、マルコメ。  これらが結びつける事、それは―― 「そこを動くんじゃねぇマルコメ野球部っ!!」 「「っ!?」」  廊下に響き渡る罵声は俺の口から吐き出されたモノ。 突然の叫びにマルコメA、B、Cは驚き、戸惑っている。 「十六夜さん、ちょっとごめんね」 「え……? きゃっ!?」  十六夜の肩に軽く触れてくるりんぱ。  前衛、十六夜 よなか。  後衛、春日 仁。  稼いだ一瞬の間に出来たのはこれだけ、だが俺のターンは終わらない。 「貴様、我らが姫君を盾に……!!」 「おっとマルコメキャプテン。 俺は動くなと言ったぜ?」  あと十六夜さんは俺の姫君だ。 勘違いするんじゃない。 「くっ、卑劣な……」 「卑怯だぞ春日っ!! 俺と代われ!!」 「いや、俺とだ!! 俺と代われば昼飯を奢る!!」 「何っ!? ならば俺は2日分!!」 「2日分とおやつ!!」  予想に反して敵軍に混乱が発生していた。 第三者、主に女生徒から冷たい視線が向けられている事に彼らは気が付いてるだろうか?  無理だろうな。 気が付いてたなら女子マネージャーの1人でもいておかしくないのに…… 「あの、春日さん? わたし達はどうしたらいいでしょう?」  あれよあれよと内戦は勢いを増していく。 今や完全に目的を忘れて繰り広げられているのは無駄な戦い。 「そうだな……戦争の無意味さを胸に教室に行こうか」 「は、はぁ……」  榊沼高校野球部。  白球より女マネを追いかける、ある意味で青春真っ盛りの男達である。
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