その少年、逃げる

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『はぁ…っ…はぁ!』 森の中をひたすら走る どこに行けば良いのかなど考える暇も無く、ただ走る 「待て!獣人!お前は不幸の象徴だ!!」 そう言いながら刀を持って俺を追ってくる人間 『はぁ、はぁ…っくそぉ…!』 俺の名前はレオ 小さい時に母さんがそう呼んでいたから、レオ この世界は人間と獣人が暮らしていた だけど、人間は獣人を忌み嫌い、殺した この世界で残っている獣人は、多分俺だけだろう 見た目は人間と変わらない だけど黄色い瞳に茶色の髪の毛、長く伸びた爪と口元から覗く牙…人間とは少しだけ違う獣人の体 身体能力も人間とは違う 鼻は動物なみ… 獣人の力が暴走でもすれば、人間など一捻り…だから、人間は獣人を恐れ差別するのだと母さんから教わった 「人間は臆病なだけ いつかはきっと分かり合える日が来るから」 いつもそう言って笑い、俺の頭を撫でてくれた母さん 今は、もう居ない 俺は母さんの言葉を思いだし唇を噛み締めながら、側に見かけた木の幹の中に隠れた 「くそ!どこに行った!?」 「はやく始末しないと災いをもたらすぞ…」 「今年は不況だ…これもあの獣人が生きているからだ!」 「はやく、はやく始末さなければ……」 『っ……』 知らない、俺が一体何したって言うんだ…! 俺は声が出そうになるのを必死で押さえながら気配を消していた 「ここには居ないようだな…よし、向こうに行くぞ!」 バタバタと走り去る人間の気配が遠退けば俺は幹から出てため息をついた 『…母さん…父さん…皆』 誰も居ないけど、呟く 名前を呼んだら優しく振り向いてくれた人達は、もう居ない 分かっているけれど やりきれない思いが込み上げてくる 『っ…うぅ……!』 くそ、泣くつもりなんか…無かったのに… 俺はその場にしゃがみ込み声を殺して泣いていた 「…誰か居るのか?」 『っ!?』 不意に響いた声 俺はバッと顔を上げ全身に力を込めた 逃げないと はやく、逃げないといけない 脳内でそう繰り返す しかし、不意の出来事で体は動いてくれない そうしている間にも足音はこちらに近付いてくる そして、草むらの中から1人の男が出て来て俺を見るやいなや 「獣人…!?」 『!?』 その言葉にハッとして俺は右の草むらに逃げだした 「まて獣人!!」 そう叫ぶ男の声など、もうどうでもいい 俺はひたすらまた、逃げたんだ
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