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「菜花(なのか)!」
背中から、多分あたしに向かってかけられた声に、思う。
また間違えた、って。
「郁也(いくや)くん……、あたしは立夏(りつか)です」
わざと呆れてるように表情を作って、振り向く。
郁也くんは、慣れたように軽く「ごめん」と言った。
「また立夏ちゃんと間違ったかー。ふたり、後ろ姿だと髪型もそっくりだよね」
菜花と間違えられたのは、これで何度目だろう。
両手で足りる数ではないことだけは、確か。
「自分の彼女の顔くらい、そろそろ見分けたほうがいいと思う。菜花に聞かれたら大変……」
「もう遅いよぉー!」
あたしと郁也くんは、同時に一方を見る。
そこには、見覚えのありすぎる顔。
例えるならば、自分とは違う動きをする鏡。
あたしの、双子の妹。
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