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そして、あたしをもっと絶望に突き落とした事実。
それは、ふたりが付き合うきっかけになったのは、郁也くんから告白したってこと。
「お姉ちゃんのクラスの男子に告られちゃった。どうしたらいいかな?」
クラスに男子がたくさんいるのは当たり前で。
初めに思い浮べた顔が“彼”だったのは、あたしがいつも考えていたからだと思う。
「遠藤郁也っていう人、知ってる?」
知ってる。
ううん、もっと知りたいくらい……。
まだ始まってない。
好きなんかじゃない。
そう言い聞かせて、声を絞り出した。
「いい人だよ……」
菜花には、知ってほしくなかった。
でも、嘘はつけなかった。
嘘でも、「あんな人やめなよ」って、言えなかった。
隣になって、ほんのわずかの期間。
そんな時間の中でも、郁也くんに嫌な部分なんて見つからなかったから。
彼の悪口なんて、嘘でも言えなかった。
好きじゃない。
まだ戻れる。
そう考えた時点で、戻れる地点はとっくに過ぎていた。
それに気付くのは、それからあと少しのこと――。
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