5599人が本棚に入れています
本棚に追加
画面は、リダイヤルの履歴まま。
最新の名前は……。
ケータイを受け取る。
深呼吸してから、発信ボタンを押した。
それを見ると、菜花は立ち上がってドアに向かった。
「えっ、どこ行くの?」
「部屋ー」
「髪は?」
「ひとりで出来るもーん」
ドアが開く。
菜花が片足を廊下に出す。
「大丈夫」
そう言って笑った顔はぎこちなくて、でも、今までで一番強い意志を持ったものに見えた。
ケータイからは、未だコール音。
菜花が、部屋を出てドアを閉める。
――パタン。
「嫌いなんて嘘だよ」
ドアの向こう側から聞こえた、微かな音量の言葉は、聞き間違えなんかじゃない。
コール音が止んで、
「もしもし?菜花……か?」
話すのをためらうような、愛しい声が届いた。
「郁也くん、……立夏です」
「えっ!?立夏ちゃん!?なっ、なんで!?――うわっ!」
声の背後で、バタンバタンと、何かを倒した音が聞こえる。
つまずいた?
あたしは音にもならないほどに少し吹き出したのだけど、気付いたかな。
「あのね、郁也くん、あたし――」
今日は、菜花と一緒に寝よう。
そしたら……ねぇ、どんな話をしようか?
とりあえず、どれだけ好きか、聞かせてあげる。
同じ日、同じ時間に生まれて、いつも一緒にいる君に。
END
最初のコメントを投稿しよう!