置き傘のパラドックス

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ベンチに座って傘を隣に置くと、平然を装って伸びをした。 雨に顔をしかめる演技も忘れずに。 内心は心臓が激しく脈打ち、足は微かに震えていて、それを寒さのせいにできるほど今日は冷え込んでいなかった。 僕の右側二メートルのところには紫陽花凛がいて、雨が止むのを静かに待っている。 それが夢にしか思えなくて、自分が今している行動の意味さえわからなくなってきた。 僕はどうしてこの公園に入ったんだろう。 話し掛けるって、どう声をかけるのかも考えていなかった。 それどころか、座ってから少し時間を開けてしまったせいで、妙な空気ができあがってしまった。 これでは声をかけるどころか、携帯電話をマナーモードにしなければならないほどの緊張感が漂ってしまっているじゃないか。 空を見上げるふりをして、横目で紫陽花凛を確認した。 彼女は黙ったまま、僕のことなどまるで気にしていないように雨の降る景色を眺めている。 制服と綺麗な黒髪には水滴がついていて、どうやら雨宿りする前に少し濡れてしまったようだった。 水溜まりに落ちる雨水が弾ける。 どれくらいここにいるのか、時間の感覚がなくなってくる。 隣にいる紫陽花凛に鼓動の音が聞こえてしまうのではないか。 そう思って必死に落ち着こうと思っても、心臓はおさまってくれやしなかった。 雨は一向に止む様子を見せない。 だけど今は、どうしてかこんなにも止んでほしくない。  
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