置き傘のパラドックス

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どれくらいそうしていたのかは覚えていないけれど、もしかしたらほんの数分だったのかもしれなかった。 紫陽花凛は何も言わずにじっと雨に染まる街並みを見つめているだけで、僕はと言うと、そんな平常な彼女の隣で一人でずっと平然なふりをし続けていた。 話し掛けるつもりだったけれど、もうそれどころじゃなくなっていた。 雨の音が空間を支配するこの世界で、ただ二人黙ってそれを聞いている。 そこで不意に、冷静な考えが過った。 もし雨がこのまま降り続けたら紫陽花凛はどうするのだろう。 彼女はどう見ても傘を持っていなかった。 だからこそこうして寂れた公園のベンチで長いこと雨宿りをしているのだろうが。 雨が止まなかったら帰ることができないんじゃないか。 今一度空を見上げるが、雨は僕がここへ来た時よりも強まっている。 彼女の家がどこにあるかは知らないけれど、雨宿りをするくらいならここからすぐそこ、と言うわけにもいかないはずだ。 もう一度空を見上げても、降りしきる雨はまだまだ止んでくれそうにない。 そうだ。 ベンチに置いていた鞄を持ち上げて背負う。 それから靴ひもをしっかりと結び直すと、僕は立ち上がった。 紫陽花凛が冷たい瞳をこちらに向ける。 無造作に畳んだビニール傘の水滴を振り払って差し出すと、息を吸い込んだ。 「これ、良かったら使って」  
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