置き傘のパラドックス

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 雨に濡れた街を走り抜ける。 水しぶきを上げながら、水溜まりを駆ける。 公園から家までの道のりを、ただひたすらに。 紫陽花凛の顔をはっきりと見ることはできなかったけれど、たぶん驚いた顔をしていた。 傘をさす通行人の間を通り過ぎ、額に貼り付いた前髪を拭う。 笑顔が止まらない。 ただ嬉しかった。 初めて声をかけたことが。 少しでも彼女が僕のことを見てくれたことが。 同じ教室にいながら、ずっと異世界の住人だと思っていた紫陽花凛と、ようやく同じ景色に立てたような気がした。 びしょ濡れになりながら、一人で笑みを浮かべてただ走った。 僕はクセっ毛だから、髪の毛が濡れることなんか気にしない。 「やった」 ガッツポーズをすると、近くを歩いていたサラリーマンがびっくりして、目を丸くしながら僕を見ていた。 傘、使ってくれたらいいな。  
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