枝垂桜のフィロソフィア

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朝学校に向かう途中で大家さんとすれ違い、ゴミはきちんと分別するようにと注意されながら登校。 若葉から川越まで電車で二十分。 駅から学校までは無料バスが何本も往復しているため、そこからはバス通学ということになる。 今日から授業が開始される。 緊張と不安が心臓を高鳴らせるが、紫陽花凛を前にした時の鼓動とはまたちょっと違った。 友人は、入学説明会の時に隣の席に座っていた赤城という男子生徒が一人だけ。 彼はなんというか、まだ高校生が抜けきっていない。 髪の毛も僕と同じで真っ黒だし、服装だってジーンズにパーカーという普通の格好。 だけど似たような境遇の僕には、彼の姿に安心と好感をもらった。 「席とっておいたよ」 人懐こい笑顔を浮かべた赤城が、教室に入る僕を見つけるなり手を振った。 早めに来たつもりだったのにけっこう人がいるものだと驚きながら、赤城の隣に腰を下ろして鞄を置く。 まだ入学して間もないから、僕と赤城のように会話をする生徒は少なく、いても距離の離れたギクシャクとした関係だった。 「おはよう、早いね」 もちろん僕らも知り合って数日、会話もなんとなくぎこちない。 「間違えて一時間早く来ちゃったんだよね、教室入ったら誰もいなくてびっくり」 「あはは」 啓大や羽村と初めて知り合った時もこんな感じだったな、なんて懐かしいことを思い出したりする。 きっと赤城も、本来はもう少し活発なのだろう。 入学説明会で先に話し掛けてきたのは赤城の方だった。 それから授業が始まるまで何気ない雑談を繰り広げ、お互いに少しでも距離を縮めようと試みた。 彼は球技全般が得意なこと、彼女は今はいないこと、UPLIFT SPICEというバンドが大好きだということなんかをたくさん喋った。 なんとなく、僕とは違うジャンルの人間であるような気がしてきたけれど、今度一緒にライブに行こうと誘われてしまえば、頷くしかなかった。 「そういえばどこに住んでるんだっけ?」 「俺は川越、愛川は?」 「僕は若葉だから羨ましいよ」 やがて授業開始の時間になると、教壇に立った教授がマイクのスイッチを入れた。 僕と赤城は顔を見合わせて、教科書とルーズリーフを取り出したのだった。  
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