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「じゃあ可愛いってなんだろう」
彼女が突拍子もないことを言うのは毎度のことながら、今回はまたいつもにも増して変わった話題だった。
「髪を黒くしたら高校生に見える大学生は可愛い?それって幼い、子供みたいってこと?小動物とかって言うけれど、それも同じような意味でしょう?」
おかしな事を言うことに関しては、千葉出身の大宮も負けてはいないものの、彼女の論理は常に筋が通っていて、単純な会話では終わらない。
「うん」
「じゃあ女の子にそれを求めるのはなぜ?世の中の男の人はみんな子供が好きってこと?」
湿った風が彼女の髪を靡かせ、それをかき上げる。
針葉樹から滴り落ちる大粒の雨水が、ビニール傘の上で弾けて音を立てた。
「そうじゃないと思うの。人って結局外見。中身は二の次。それは動物的本能であって、子孫をより良い形で残したいって思う衝動だから仕方ないの。だから男は顔じゃない、女は顔じゃない、って言う人は動物的に病気なんだわ、きっと」
六月の灰色に染まる空の下、息継ぎもなしに一気に持論を並べた。
「ずいぶんひどい物言いだね」
毒のある発言だが、ハイドラの姫にとってそれが悪意を含んだものでないことは承知の上。
「安心して、私の目から見ても貴方は可愛いわ」
髪の毛をくるくると指に巻いて遊んでいた手が止まる。
照れくさかったから聞こえないふりをしようとしたけど、やめた。
「男に求めるものじゃないと思うよ。それは女の子に求めるものだ」
「じゃあ私は女の子が好きなのかな?」
いきなり何を言い出すかと思えば。
冗談にもなってない台詞に苦笑いしながら傘を握り直すと、彼女はさも楽しげに笑った。
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