置き傘のパラドックス

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 この物語を語るにあたって、まずは紫陽花凛の話をしなければならない。 彼女を知ったのは高校三年の時、思えば最初見た時から気になっていたのかもしれない。 同じクラスになった友人である啓大に、すぐに『あれは誰?』と尋ねたくらいだ。 これを一目惚れと呼ぶなら実に馬鹿馬鹿しい。 今まで僕は所詮一目惚れなんて容姿のみを見て内面を見ていない者の戯れ言程度にしか考えていなかった。 と言うのも、僕はそれまで恋愛経験など皆無に等しかったからだ。 「ああ、紫陽花凜だよ。愛川、お前何も知らないんだな、有名人だぞ」 啓大は半ば呆れたように表情を歪ませるなり、世界史の教師みたいな台詞を吐き出した。 シヨウカリン。 そういえば聞いたことがあるような気もしてきた。 「仕方ないよ、彩月はそういう話には疎いからね」 反対側の席で読書をしていた羽村が小さく笑いながらこちらのことなど見向きもしないで、さも当然と言った様子で口を挟む。 そこまで言われるとさすがの僕でも少し気に触る。  
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