プロローグ

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その日、病院は二人が消えたことで大きな騒動になった。 両親と医師、看護婦の数時間の捜索の末、タケルは湖のそばで眠っているところを発見されたが、カンタの姿はどこにもなかった。 ただ湖の上に、カンタの靴下が浮かんでいただけで。 「カンタはずっと、行きたいところがあるって言ってた。そこに行くって、…言ってた。」 警察の取り調べに、タケルが消え入るような声で答えた。 タケルへの疑いも拭いきれない様子だったが、わずか3歳の少年にカンタの不自由な体をどうにかするのは誰が聞いても無理な話だった。 「それはどこなの?」 ヨシノの問いに、タケルは首を横に振った。 そのまま泣き出しそうに俯く彼を、母はギュッと抱きしめた。 父は悔しそうに壁についた腕に額を押し当てていた。 湖を念入りにさらってもカンタは見つからず、後日遺体無いままに葬儀が行われ、家の中に静けさが訪れた。 ヨシノはタケルを抱きしめたまま泣きつづけ、落ち込むヤマトは彼女の肩を強く抱いた。 タケルは震えるその腕の中で小さく体を丸め、夕日が沈んでから、おそるおそる声をあげた。 「ママ、…おなかすいた」 くう、と鳴く腹に悲しみが浮かんだ。
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