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しばらく壮観な景色を眺めてふと、自分の体を撫でる薄桃色の糸のようなものに気づく。
意志は無いようで、風になびきながらも
それに乗ってどこかへ飛んでいくことはなかった。
タケルはそっと、力の入らない両手でそれを掴む。
柔らかいがハリのある糸だ。
根元をたぐりよせるように巻き取ってみると、頭皮がピンと引っ張られた。
「………髪?」
別の束を引っ張ってみるが、同じ様に頭皮につながっていた。
いつ髪を染めたんだ…こんなに伸ばした覚えも無い。
そう思って髪を握っていた両手を解くと、桃色の髪が青白い手の平からハラリと落ちた。
青白いというよりは、肌がうっすらと緑色に透き通っている。
「そういえばなんで…」
着込んでいたはずの服はなく、気を失う前より痩せた体は裸だった。
凍えるようだった気候も、春のように暖かい。
「ここは…どこ?」
改めて、目の前の景色が知らないものだと認識して、タケルは慌てて立ち上がった。
知っている人を探したい、誰かに教えてほしいという思いからの行動だったが、両足が思い通りに動かず、そのまま180度回転した状態で尻餅をついた。
目の前には枯木。
大きな大きな大木は、もう寿命を終えたように所々を朽ちらせている。
正面の幹には大きな穴も空いていて、人一人が入れるほどだった。
「………桜の、木?」
それは随分大きくはなっていたけれど、随分朽ちて崩れていたけれど。
見覚えのあるシルエットは、自分が一番好きな桜の木と同じだった。
「…ここは、…どこだっ!」
知るものは一つも無いこの景色の中、タケルの声が虚しく響く。
唯一知っていたはずの木は腐り、疲れて眠ったように返事は返してくれなかった。
「誰かっ……!」
妄想にも似たありえない予想が、現実にもっとも近いように思えて
タケルは再び流れる涙を止められずにいた。
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