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ここがどこかもわからない。
誰かを探そうにも、体は思うように動かせず立ち上がれない。
途方にくれてぼんやり緑を眺めていると、遠い空から鳥の羽音が近づいてきた。
背の後ろ、桜の木の向こうから飛んでくる。
それは見たことの無い大きな鳥だった。
美しいダークグレーの羽が風を切って、静かに草原に舞い降りる。
太陽の光を反射する大きな瞳が、桜の木を見上げた。
金色の綺麗な瞳が何かを言いたげに揺らいだあと、諦めの色を浮かべて視線を地面に落とした。
そしてもう一度視線を上げて、木の後ろで見守もるように座っていたタケルに気づいた。
「………人、間?」
信じられないものを見たように呟き瞳を見開く。
ハッと桜の木とタケルを交互に見て、激しくうろたえていた。
「産まれた…のか?この木から…今…こんなにも時間がたっているのに…」
鳥の声は今までと変わらず全身に伝わる感情のように脳を伝い、鼓膜を揺らした。
人とは違うその感覚に、けれど話せる相手がいることに安堵する。
タケルがその鳥に話し掛けようと口を開いたその瞬間。
「ッ…」
ーーーピィィィィィ!
悔しそうに短く息を漏らして、鳥は甲高く鳴いた。
鼓膜を突き破らんばかりの鳴き声に慌てて耳を塞ぐが、そうこうする間もなく鳥がこちらに向かって翼を羽ばたかせた。
「ウ、ワァ!!」
急激に接近するくちばしに、本能からか両手で頭を覆う。
しかし鳥は大きな足でタケルの両腕を掴むと、そのまま崖から飛び立った。
「うわ…、うわあああ!」
「黙れ、気づかれる!」
それは山の頂きからスカイダイビングをするほどの高さと速さであったが、鳥は構わず何度も羽ばたいて加速した。
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