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突き抜けるような青い空。
蝉の鳴く声がそこかしこで響いている。
積み上がった雲は、目も眩むほどに白かった。
「行ってきます」
ミンミン蝉の声にかき消えそうな言葉だったけれど、家の奥からいってらっしゃいと返事が聞こえた。
振り返れば足の悪い祖母が、太い柱に体重を預けるように手をついてこちらを見つめている。
「タケルちゃん、車に気をつけてね」
祖母の顔がくしゃりと笑う。
それに弱い笑みで返して、タケルは玄関の戸を静かに閉めた。
太陽の日差しを手の平で覆いながら空を仰ぐ。
じわりとした汗が浮かんで、首筋を流れた。
ため息を一つついて、ゆっくり駅に向かって歩きはじめる。
足元の砂利が居心地悪そうに鳴った。
この祖母の家の最寄り駅から30分以上電車に乗ると、数年前まで彼が住んでいた町がある。
夏休みに入ってからというもの、タケルは毎日のようにそこへ足を運んでいた。
せわしなく行き交う人々の波にのり、吸い込まれるように慣れた電車に乗りこむ。
ひんやりとした空気が全身を包んで、安堵に似たため息がこぼれた。
入口のすぐ横の椅子にこしかけて、ゆっくりと流れはじめた景色に視線を投げる。
小さな揺れに身を任せながら、窓の外遠く近づいて来るなつかしの町を見つめるのだった。
「次はー、桜木町、桜木町…」
懐かしさの中にある居心地の悪さに、膝上で合わせていた両手をぎゅっと握りしめた。
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