プロローグ

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小さな頃に通っていた駄菓子屋は、数年前からシャッターを閉めたきり開かれることはなかった。 その奥のパン屋は今も小規模ながら良い香りを漂わせていて、よくここのメロンパンを買ってもらっていたなと思い出す。 幼い頃、走り回っていた街中は、多少変われどはっきりと面影を残していた。 「ただいま」 小さな声とともに、目の前の土地に顔を上げる。 開けた土地にはロープが張られていて、『売地』の看板が下げられていた。 そこは数年前まで、タケルの家があった場所だった。 何の手入れもされていないのか、冬までは赤茶けた土地が広がっていたのに、今は膝ほどまでに雑草がぼうぼうと生えている。 敷地の端に立つ桜の木以外、ここだけがくりぬかれたかの様にぽっかり面影を消していた。 ロープをくぐり、雑草を踏み分ける。 そのたびにバッタが驚くように飛び跳ねては、葉を揺らした。 そんなに広くはない土地だ。 大またで歩けば、ほどなくして大きな桜の木が目の前に立ちはだかった。 風が吹いて足元の雑草がざわめく。 頭上の桜の葉も擦れ合って、何十にも重なるそれらの向こうからキラキラと木漏れ日が揺れた。 おかえり。 そう言われた気がして、タケルは小さく微笑んだ。
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