3人が本棚に入れています
本棚に追加
「やだ、あの子また来てるわよ」
桜の木の根元に座り込み、目を閉じる。
車の通りの少ないそこで聞こえるのは、命を燃やす蝉の鳴き声と、多くの葉の擦れ合う音と、近所の主婦の立ち話ぐらいだった。
「何です?」
「あら小林さん知らないわよね。ほらあそこ、空地になってる桜の木のとこ、男の子いるでしょ?」
主婦は最初こそ気を使うように小声で話していたが、そのうち自分でも気づかないのか声のトーンを上げていった。
「あの子の家族、ちょっと前まであそこに住んでたんだけどね…あの家族、呪われてるって噂なのよぉ」
悍ましいものでも見たかのように声をわずかに震わせながら、相槌を打つ傍らの主婦に続ける。
「両親もあの子の双子のお兄ちゃんも相次いで亡くなってね…今はおばあちゃんに引き取られたとかでさ」
「亡くなったって?事故かなにかですか?」
「違うのよ、それがね…」
みーんな、自殺。
『ごめんな、タケル。』
突如耳鳴りが響いて、タケルは両耳を塞いだ。
最初のコメントを投稿しよう!