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「あぅあー!」
「タケル、こっち」
1歳の誕生日を過ぎた頃、タケルの無邪気さに磨きがかかる。
立ち上がれるようになってから、部屋中を歩き回っては様々な物に興味を示した。
それをあやして諭すのは、拙くはあるが既に言葉を操る兄のカンタだ。
「検査、どうだった?」
「全部異常ないって。そのうち弟も追いつくだろうって。」
両親は、最初こそ弟のタケルの発達が遅れているのだと考えた。
初めての育児、子供の成長の平均速度がよくわからなかったのだが、周りの話しを聞いていくうちにカンタの脳の成長が早すぎるのではと悟ったのだった。
医師に診察をしてもらい詳しい検査もしたが、どれも平均値を上回ることはなかった。
「ママ」
カンタがタケルと手を繋いだまま、両親の座るダイニングテーブルに歩いてきた。
「タケルのオムツかえたげて」
「あらあら、おいで、タケル」
兄の後ろでどこか悔しそうな、いじけたような表情のままのタケルを抱き上げ、ヨシノはそのまま縁側でオムツを変えはじめた。
それをその場でじっと見つめるカンタの頭に、ぽんと重みがかかる。
見上げれば、父ヤマトの笑みがこちらを見下ろしていた。
「カンタは凄いな。タケルの面倒見てくれて、パパもママもすごく嬉しいよ」
頭をぐりぐりと撫でられると、カンタが照れたように笑う。
「タケルはオトートだから、ぼくがまもってあげるんだもん」
その笑顔に、ヤマトは先程まで拭いきれずにいた不安を忘れようと決めた。
少し人より違っていたとしても、それが決して悪いことではないのだ、と。
この時はまだ、そんな悩みや不安もどこか幸せに感じていた。
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