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約束
自宅の寝室から直接繋がるプライベートガレージへのドアを開け、広々としたフロアを愛車に向かって歩き出した。
俺の足元にまとわりつくように、さっきまでベッドで丸くなっていた永吉が付いてくる。
あえて照明は点けず、リモコンでシャッターを開けた。
初夏の陽射しがゆっくりと1978年式 Harley-Davidson Shovelheadの美しいボディを照らし出す。
一時、この愛しい彼女に見とれながら、右耳にはさんでいたセブンスターを唇の左端にくわえた。
永吉はSnap-onの鮮やかな赤いツールボックスの上に登り、そこに置かれた彼専用のクッションで、揃えた前足の上にまだ眠そうな顔を乗せて俺の様子を眺めている。
俺は永吉にウインクし、愛するショベルのフェーエルコックをONにする。
そしてSUキャブのティクラーポンプを「カチャカチャカチャ」と10回押し込み、キックペダルを軽く2回踏み下ろす。
ここで初めてイグニッションをONにしてアクセルを2回煽る。
今まで何千ダースも繰り返してきたアクションだ。
俺はセブンスターを唇の左端にくわえたまま、渾身の力を込めてキックペダルを踏み下ろす。
「バルン!!! ドコドッ!ドコドッ!ドコドッ!」
3回目のキックで愛車が目を覚ました。
俺はタバコに火を付け、エンジンが暖まるまでの間、ショベルのボディを愛撫する。
至福の時間だ。
10年前のあの日、同じようにショベルに火を入れ、俺は久しぶりの幸福感に包まれていた。
しかし、その時かかって来た1本の電話が俺を地獄に突き落としたんだ・・・
(ショベルヘッド:古いハーレーのエンジン・1966年~1984年。
又はショベルヘッドを搭載した車輌)
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