旅路の女狐様

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 再び疑問符を浮かべる上谷さんは、小首を傾げて俺の言葉を待っている。 「上谷さんの予知で俺が行動を決定すれば、未来への影響はとても大きくなる筈。紅茶を頼んだ程度で未来が見やすくなったなら、まず間違い無く未来は簡単に見える様になる。その上、上谷さん自身は直接的な攻撃の手段を与えられていない。剣と魔法の世界でそれは、個人ではそこまで大きな影響力にはならない。以上、説明終了」  待たれていたので一気に説明した。 「文哉さん、何だか学校の先生みたいです」  それは誉め言葉として受け取って良いのかな。 「ううん……、大学の教授? 学者さん? えっと、とにかく頭が良いですね。やっぱり文哉さんは頼もしいです」  誉め言葉だったらしい。  誉め過ぎなくらいに。 「的外れな事を言ってる可能性もあるけど。考え方の一つとして覚えておいてよ。細かい所は全く分かってないし」  上谷さんの行動が影響を与えない未来について、今後視る事が出来る様になるのかとか。  いや、今現在でもぼんやり視えてそうな言い方されてたけど。  決して実用レベルではなさそうだし。 「こんな事なら、私の神術も文哉さんが持ってたら良いのにって思っちゃいますね」  苦笑しつつ言われた上谷さんの言葉に、俺はひたすら苦い顔。 「止めてくれ。万物創造だけでもお腹一杯だよ。更に上谷さんの未来予知までなんて……」  只でさえこの身に余る力だってのに。 「あ、そうです」  何か話題を変えるのか、上谷さんはそう切り返した。 「これから一緒に旅をするんですから、私の事は茜って呼んでください。私も、文哉さん、って呼ばせて貰っていますし」  ほほう。 「じゃあ、これから茜の事は呼び捨てにさせて貰おうかな」  ちょっとした意地悪を笑顔で。 「はい、その方が良いです」  ……の、つもりだったんだけど。  あるぇー? 「今の、ちょっとした冗談だったんだけど……」 「え、そう呼んでくれないんですか……?」  何でこんな残念そうな表情を向けられてんの俺。  俺の良心にクリティカルヒットさせたのは二度目だよこの子。 「いや……、茜さん、って呼ぼうかと思って……。茜って呼ばせて貰うよ。これから宜しく、茜」  折れた。  完膚無きまでに、清々しい程の完全敗北。  だって仕方ないだろ。  連続クリティカルは致命傷だ。
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