火のアトロシティ

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「それだけ分かれば十分。未来予知、かなり使いこなせる様になってきてるじゃないか」  これなら安心だ、と安堵の表情を浮かべながら茜を褒める。 「……はいっ」  笑顔を浮かべた茜の頬にほんのり赤みが差したのは、俺の気の所為という事で処理しておく。 「油断してると後ろから女に刺されそうな奴だな、文哉って」  そしてフレイがそんな爆弾発言をしてきた、と。 「別に口説き文句を言ってた訳じゃないだろ俺!?」  自分でもびっくりするくらいの声を出してしまった。  そのくらい、フレイからの切り口が鋭かった訳だ。 「そりゃそうなんだが、お前からは天然ジゴロのオーラが漂ってんだよな」  どんなオーラだそれは。  俺が反論すべく口を開くより先に、別の人物の口が開いた。 「文哉様は人誑しで女誑しですものね。天然ジゴロというのも、決して的外れではないでしょう」  にこにこと愉しそうな笑みを浮かべて、銀色の女狐様は俺をからかう。  なんでそういう所だけフレイに同意してるんだろうねシエル様は!?  思えばヴィアと打ち解けた切っ掛けも、一緒になって俺を攻撃する事だった気がするし! 「俺がいつ、誰を誑し込んだと言うんですか!」 「それはもちろん、わた……」  言葉の途中で突然、声のボリュームを急降下させたシエル様。  銀色の女狐様は、みるみる内に朱色の女狐様へと変貌を遂げる。 「コホン。いえ、何でもありませんわ。それより今は、クライズが戦っている事ですし。戯れも程々に致しましょう」  それから、視線をクライズさんとアトロシティの方へと向けた。  え、何この状態。  フレイからは意味ありげな視線を向けられるし、茜からは何となく不安げな視線を向けられるし。 「とりあえずフレイ、後で覚えとけよ」  この微妙な空気を作り出した原因に、全ての責任を負わせる事で決着させた。 「おう、夜道には気を付けて歩くぜ」 「いやもう単純に一発殴らせろ」 「はっはっは、断る!」  真正面から拒否しやがったコイツ。
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