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「では、話は纏まりましたわね。予定より随分時間を取ってしまいましたが、そろそろ出発致しましょう」
庶民的な服に身分を隠した銀色の姫君は、ここに来た当初の目的を掲げた。
「時間を取らせて済みません」
俺は苦笑しながらシエル様に謝った。
「これから真田様の一ヶ月間を貰うのですから、そんなモノはとても些細な事ですわ」
ああ、成る程。
その言い方を借りると、俺はあと何ヶ月の時間をシエル様にプレゼントする事になるんだろうな。
月単位どころか年単位は覚悟してるけどさ。
「あっ、俺の所為で長引かせてしまって申し訳ありません!」
謝るタイミングが分かり辛かったのか、クライズさんが慌てた様子で謝罪。
けど、正直クライズさんに責任があるとは思えない。
と言うか俺の所為だし。
「クライズも、大丈夫ですわ。責任は真田様にあるそうですから」
そうですわよね、と。
シエル様は俺に目配せ。
「そうですよ、クライズさん。人の責任は勝手に取るモノじゃ無いです。そして俺は、既にシエル様から許されてます」
だからこれ以上の話は無駄。
そんな暴論を振りかざす。
「もっとも、これ以上何か言うのであれば、確かにクライズさんの所為で長引いてしまいますけど」
そこにだめ押しの台詞。
「それでもまだ何か?」
「いや、何も無いっす」
なら良いな。
「では、一ヶ月後に戻りますわ」
散歩にでも行く様な気軽さで。
我らが女狐様は短く言って、そのまま門の外へと歩き始めた。
「いってらっしゃいませ」
その専属侍女たるメリエルさんも、同じ様に気軽な言い方で。
そうして、シエル様と俺の旅が始まった。
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