バスジャック

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 進学校の高校三年とは、つまり来年の大学受験を控えた受験生と言うヤツである。  学校の先生は口を酸っぱくして、俺達受験生の耳にせっせとタコを養殖していくのである。  「勉強をしろ!」と。  尤も、それは尊敬する先輩方の談であり、なりたてほやほやの受験生たる俺には、未だ経験の無い事象なのだ。  季節は春。  俺が今見ている景色の中では、桜の花が鮮やかに咲き誇っている。  未だ残る長期休暇の遺産、倦怠感を檻に閉じ込めて早起きをした俺には、少し眩しい光景だ。  視線を少し動かすと、どうやら次のバス停がすぐ傍まで迫っている。  ───そう、俺はバス通学中だった。  バスの運転手は道路脇に車体を寄せ、バス停にて佇んでいた白髪のお婆さんを乗せてから再び走り出す。  通勤・通学ラッシュ、なんて言葉が全く似つかわしくない、至って平凡で平和な時間がゆるゆると流れていく。  ゆるゆるなのは今の俺の思考だと言う意見は、無視する。  さて。  もう一つバス停を越えれば、次は慣れ親しんだ学舎(まなびや)が見えてくる。  その途中の山道を越えれば、だが。  そんなこんなで、俺にとっては最期の通過点であるバス停に到着。  名前も知らない、俺と同級生である事だけは知っている女子高生が、若いサラリーマンと一緒にバスを待っていた。  サラリーマンの顎の右側には、髭の剃り残しが見えた。  そのまま二人を乗せ、出発すべくドアを閉じようとしたバスに。  突然の侵入者が現れた。  いや、公共のバスに対して侵入者も何も無いだろう、と言われるかも知れない。  しかし、今はそう言わせてくれ。  何故ならその侵入者は、陽射しも随分暖かくなったこの時期に真っ黒なコートを着込み、真っ黒な手袋をし、真っ黒なニット帽を被ってサングラスとマスクを着用していたのだから。  オプションとして、右手には刃渡り十五センチはありそうなナイフまで。  沈黙に包まれる車内。  先程までも静かだったが、今はその質が全く異なる。
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