バスジャック

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 あまりにも乱暴な足音を立てて侵入した為か、運転手までもがその男───男か、体型を見るに。  兎に角、その男を見ている。  つまり、車内に居る運転手、白髪のお婆さん、髭の剃り残しがあるサラリーマン、名前も知らない同級生、そして俺の全員が男を見ている訳だ。  黒づくめの男は、マスクの所為なのかくぐもった声で叫ぶ。 「バスジャックだ! 全員大人しくしろ!」  言わなくても、余程の馬鹿じゃなければ分かる。  なんてツッコミを入れた瞬間、俺の人生はバッドエンドを迎えてしまう事だろう。  さて。  前回のセーブポイントが何処だか分からないが、是非ともリセットボタンを押したい。  そして四月三日の今日、このバスを避けて無事平凡な始業式を迎えたい。  なに、俺も記憶力に自信がある訳では無いが、人生のターニングポイントまたはゴールになるかも知れない重要な事柄を、そうそう忘れはしない。  だから早く、俺にリセットボタンを! 「良いか、全員動くなよ! 少しでも許可無く動けば、ブッ殺してやるからな!」  些か冷静さを欠いた俺の思考とは無関係に、事態は進行していく。  黒づくめは徐(おもむろ)に、コートのチャックを開け始めた。  何だ、ただの露出狂か。  そう思った瞬間の俺を、一周して誉めてやりたい。  男の腹部には、えらく付け心地が悪そうな腹巻き。  なんだ、腹でも壊してるのか。  そう思った瞬間の俺を、一周して誉めてやりたい。 「コイツはダイナマイトだ! 下手な事すっと、全員道連れだからなァ!」  旅は道連れ。  そんな言葉はクソ食らえ。  冗談じゃない、こんな意味の分からない状況で死んでたまるか。
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