16903人が本棚に入れています
本棚に追加
内心ではそんな勇ましい事を考えても、一般的な高校生たる俺に現状をどうにかする勇気は無い。
勿論、技術だって無い。
体育の評定は四と言う、「まあ割と運動出来る方だよね」と言われる程度の、全く普通の域を超えない俺である。
何より、個人的には頭脳労働派だと自分を評価している訳で。
「おい運転手! いつまでも停まってんじゃ無ぇ! 今すぐ発進しろォ!」
だから、まだバスが停車していた今の内がチャンスだった事には気付いていたし、けれどハイリスクハイリターンな賭けになる事も分かっていた。
故に俺は動かなかった。
動けるかバーカ。
殺されるっての。
何に言い訳をしているのか不明だが、そんな事はどうでも良い。
今は、助かる為の努力をすべきだ。
故に俺は、全力で大人しくする。
バスが走行を再開してから、二分程経っただろうか。
その間ずっと黙っていた黒づくめが、口を開いた。
「客は全員、後部座席に移れ。妙な真似だけはすんじゃねぇぞ!」
その言葉に特に反応を示したのは、白髪のお婆さんと名前も知らない同級生。
俺とサラリーマンは、既に後ろの方に座っている。
恐らく問題無いだろう。
その証拠に───サングラスで良くは見えないが───黒づくめは残りの二人だけを交互に睨んでいる。
先に動いたのはお婆さん。
ゆったりとした動作で、山道を走行中の車内を移動。
一見して落ち着いている様にも見えるが、顔色は悪い。
そして動かないのが、同級生。
……緊張で固まってるのか?
「おい、聞こえねぇのか!? さっさと後ろに移動しやがれ!」
大声で叫ばれ、肩を大きく震わせ。
それでも同級生は動かない。
いや、これはどう考えても「動けない」のか。
俺はこんなにお節介だったか、などと考えつつ、学校の授業でも中々挙がらない自分の手を挙げた。
「テメェ、いい加減に───。何だ、どうした?」
再度怒鳴りつけて逆効果を炸裂させようとしていた黒づくめが、俺の挙手に気付いた。
冷静さは見受けられないが、周りはしっかり監視しているらしい。
「彼女、怯えてます。俺が移動させようと思うんですが、良いですか?」
出来るだけ黒づくめを刺激しない様に。
声のトーンを下げて、抑揚を付けず。
さてどうなる?
最初のコメントを投稿しよう!