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「何や、まだそれつけとったんか」
少し驚いたような声に隣を見ると、唇の端に餡子をつけた後藤純くんが私の手元をじっと見ていた。
「あ……これ?」
テーブルから持ち上げた携帯についたお守りがちりん、と鳴る。
「物持ちええな」
「まだ1年も経ってないのに……」
「ははっ、そうやな。でも気に入ってんねやろ」
うん、と頷くと「でもなぁ」と正面に座っている垣本愛が苦い顔で身を乗り出した。
反動で両耳にぶら下がった水色の石のピアスが揺れる。
「せっかくのペアやのに相手がお父さんっちゅうのはいくらなんでも侘しすぎるわ」
「でも他にいないし……」
「だからってお父さんて。あたしにくれたら良かったのにいけずやなぁ」
恨めしげな顔で白玉を頬張る愛に、私はくすっと微笑んだ。
京都へ来て数日後の昼下がり、私は以前に通っていた高校の友達と数ヵ月ぶりの再会を果たしていた。
愛と後藤くんは特に仲が良かった子で、私たちは何をするにも一緒にいた。
知識も経験もないながら愛の恋愛相談に乗っていたのを思い出す。
こうして3人でお喋りをしていると、あの頃に戻ったようだ。
「あ、薫もう近くだって」
「懐かしいな、薫ちゃん」
部活やバイトが終わり次第、他にも友達が会いにきてくれる予定だ。
みんな私との再会を楽しみにしてくれているらしく、私はこの日が待ち遠しくてたまらなかった。
「……あぁ、美味しい」
白玉ぜんざいの懐かしくて甘い味に、私は頬をほころばせた。
この甘処は評判のある人気店で、店内は地元の人間とやはり観光客と思しき人々で賑わっている。
私たちは毎週のように通っては、いつもこの白玉ぜんざいを注文していた。
ぱくぱくと夢中になって食べていると、後藤くんが肘で私の腕を小突いた。
「な、いいこと教えたろか」
「え、何?」
白玉を頬張りながら首を傾げる。
「そのお守り、効き目あるらしいで」
私は一瞬、ぐっと喉を詰まらせた。
「……そ、そうなの?」
平静を努めてきき返すと、後藤くんは興奮気味に顔を寄せた。
「報告が上がってきてんねん。おかげで両想いになれましたーって。神社の売り物ちゃうのにすごいよな」
このお守りは後藤くんがバイトしているお土産屋さんで売っていた物だ。
叶ったんだ、と手元のお守りに目を落としたとき「嘘くさぁ」と愛が渋い声を出した。
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