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鈴蘭は、目を丸くし固まる私を見て、面白そうにクスクス笑った。
「あんた、綺麗な顔しとるやんな」
私が空けた距離を詰める事もせず、変わらぬ笑顔で話しを続ける。
「家にこーへんか?今、人手がのぅなって困っとるんよ」
鈴蘭はスクッとその場に立ち上がり、地面の土が付着した綺麗な着物の裾を払う。
それからまた顔を上げて、白くしなやかな手を顔の前に翳して日除けし、私の方をジッと見つめた。
「どうせそんな家じゃあ、生活出来ひんやろ?」
彼女は私のやや後方を指差す。
ゆっくり振り返ってみると、燃えカスとなった家屋が視界に映った。
家屋だったものの周りにある草原も、焼き尽くされ、ただの荒野と化していた。
「あ…」
その光景に、改めて自分の居場所が無くなったという事を思い知らされる。
同時に、左目が痛んだ。
「どうするん?」
「うちの家からここは近いさかい、何時でも来れるよ」
私は彼女の言葉に従う他、生きていく為の選択肢が見いだせなかった。
「おいで」
差し出された手を無言でとる。
これが私の「人生」の始まり。
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