03:アリスの国の不思議

2/72
62人が本棚に入れています
本棚に追加
/425ページ
【穂照技術開発研究所内部 西側2階通路】 技術開発研究所――名前からしてそれは考えるまでもなく新技術(テクノロジー)を開発、研究する場所のことだ。 名前だけ聞けばそれはごくありふれたもの、だが実際に研究所と名が付く場所の門を叩き、足を踏み入れた事のある人間はそう多くはないだろう。 ましてここはかのモンスターコルツェルン、瓊々杵グループ傘下の研究所だ。民間出の研究所とはいえその内部は国立、下手すれば国際研究所並の高度な設備と優秀な人材で構成されていることだろう。 そんな場所だが学生なら学校行事として訪れる事もあるやもしれない、現に同じ海上都市にある教育機関のアカデミーでは社会科見学の指定地のひとつとされている。 だがそんなアカデミー高等部生徒会総務――多田 惟太が率いる学生6名らは決してそういった学校授業の一環としてここにやってきたわけではない。 それゆえに引率の先生たちなど当然いないし案内役となる施設の関係者もいない。彼らはここ研究所には極めて個人的な用件でここに訪れたからである。 学生の身分には特殊な事情でもないかぎり関わる事のないようなこの場所にひとりを除いてこなれたように、わがもの顔で歩く惟太らアカデミー生たち。 「あら、こんにちわ」 「どうも、お邪魔しております」 そんな彼らの前に中年に差しかかかった頃合いの女性が彼らが歩く通路の先にある別の通路から現れた。部外者に思える彼ら学生たちを発見した彼女は特に驚いた様子もなく親しげに彼らに挨拶し、それに応じてまとめ役の惟太が真っ先に彼女へ頭を下げる。 互いに知り合いだというのが良く分かる。そしてその女性は長袖の、丈が膝下ほどまで長くあるコート型の全身に渡って自分達が着込むアカデミーの制服のように潔白の衣服で身を包んでいる。 間違いなくそれは白衣と呼ばれる業務服。そしてこの場所においてそれを着込んでいるという事はこの女性は間違いなくここ研究所の関係者――研究員に違いないだろう。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!