62人が本棚に入れています
本棚に追加
【2027年――宮崎県 『海上都市:おのごろ』 第四経済ブロック『いきの』】
空は暗い、深夜――全天が闇のとばりが降りた時間帯。
人はその闇を科学を以って払った。それが人が住む大きな街ともなればまばゆい地の太陽の如き光を発して全方から迫る闇を押し返す。
逆に言えば人が無き場所にはそのような光は生まれない、まして海の上ならば――当然だ。人は海では生活できないのだから。
だがここは、ここだけは違う。ここは海の上でありながら幾多もの人が住まい幾多もの光を以って闇を払う。
ここは『海上都市:おのごろ』――宮崎県の日向灘(ひゅうがなだ)に浮かぶ巨大マリンフロート。
上空から見て開閉式屋根、透過率の高いドームユニットに覆われた巨大なブロック群が正五角形を形成するかのように置かれて五つ。更にそれらブロック群を統括するかのように中央にある一際に大きいブロックを合わせて計六つのエリアで構成されたこの都市。
これだけの巨大さから世界中の誰もが認める世界一の海上都市。もはや一個の人工島だと称しても相違ないその六つのブロックのひとつ。
ブロックごとに様々な特徴を持つ中、金融や情報といった経済面に特化したブロックエリア、その名は第四経済ブロック『いきの』。
略称で『経済区』や『第四区』と呼ばれるこのエリア――その中央付近、大小様々なビル建築物が建ち並ぶその中で。
ひとりの女性が息を切らせて走っていた。
服装からしてこの辺りにある会社で働くOLといったところか、激しい動きをする事に適さない服装でありながら彼女はひたすらに夜の海に佇む街の中をつき走る。
彼女以外に動きや音はない、道路を走る車も、バスも、近くにある線路上を走る電車もない――彼女以外の人がいる気配も無い。
おかしい、時間帯が時間帯だとはいえこうまで無動で無音なのはどういう事だ。何故彼女以外に動いているものが何ひとつとして存在しない?
そんな異常性にこの女性は気付いているのかどうかは不明だが走りながらも周りに誰かいないものかと大声を出している。「誰か、助けて!」と……。
最初のコメントを投稿しよう!