黒谷ご乱心

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黒谷ご乱心

件の男子学生――黒谷駆が飛び降り自殺をする数日前のことである。 彼の友人である東田翔は、黒谷の変化に疑問を抱いていた。 以前までは決して社交的とはいえない性格ながらも、東田たちの前では明るく、真面目な少年だった。 そんな彼には、多少の影が家庭にあった。 父親が蒸発、その影響か母親は宗教に浸かるという、彼にとっては苦しい家庭だったと思われる。 それでも、学校ではそんな素振りも見せない黒谷は、ある日東田にこんなことを問いかけた。 「空が……空がさ、どんどん黒ずんでいくんだよ。君にも見えるだろ?」 東田には黒谷の問いかけの意味がよくわからず、いつもの冗談かと思って受け流した。 「相変わらずお前の言ってることはよくわかんねーなぁ」 「そうか……君には、見えないか」 思えば、黒谷がおかしくなったのはこの翌日のことであり、その質問にも何か意味があったんだろうか、と東田は思った。 翌日、東田が登校すると、なにやら教室が騒がしかった。 どうやらその騒ぎの中心には黒谷がいて、黒谷が何かを叫んでいるのが伺えた。 「この世界は! やがて暗黒に包まれる!」 「その暗黒によって世界は光を失い、やがて消滅するだろう!」 「そのことには僕を含めたごく一部の人間にしか感知できない、特殊な電波によって伝えられる!」 「僕はその電波を受信し、世界を救うための後光となろう!」 東田は唖然とする。黒谷が叫んでいる内容が突拍子の無い夢物語で、妄想の産物であろうということもそうだが、真面目で好青年の黒谷が、まるで狂気染みた演説をするとは思えなかったのだ。 演説を終えた黒谷が教室から飛び出てくる。そして東田を見て、薄気味悪い笑みを浮かべた。 その目は、もはや黒谷ではなかった。
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