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「リヒト、ぼんやりしてどうしたの?」
不意に、視界に柔らかな輝きを湛えたペールブルーの瞳が入り込む。ラズが、いつまでもぼんやりしている俺を見かね、覗き込んできたのだ。
「……なんでもないよ」
視線を合わせ、微笑を向ける。
俺は今、同じく襲撃から生き延びた少女、ラズ……ラズシェーナ・グラッデンと共に近隣の村で暮らしていた。
ラズとは、所謂幼馴染という関係だ。もちろん、六年前の事件が起こる前からの、という意味でのだ。年齢はラズの方が一つ上ではあるが、既に俺とラズはそんな事は些かも気にならない程に、濃厚な親密性を持つ間柄になっていた。
間柄、と言ってもそこには邪な意味合いなどは一切存在しない。
言うならば、ラズは母であり、姉であり、妹だ。そこには家族愛以外には何も存在しないのだ――しては、いけないのだ。
俺は、ちらりとラズの横顔を盗み見た。
頭頂部から腰の辺りまで滑らかに流れている、触れれば、まるで火にかけた新雪のように脆く崩れてしまいそうな程に細い金の髪。朝の柔らかな日差しを浴び、ハレーションを起こしている――しかし、到底それだけが理由とは思えない程美しくきらめく肌。透き通るようなペールブルーの、くりくりとした輝く瞳。高く、通った鼻梁に、その下に鎮座する、慎ましく愛らしい薄桃の唇。
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