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クーラーの送風口のはねは上下にゆっくりとうごき、そこでやっと部屋の空気がすこしかき回される。
僕は目を閉じて、もう一度君の、かすかにうごくその唇が、いったいなにをつむごうとしていたのかを想像した。
その夢はいたってありがちなもので、僕はすでにもういないはずの彼女の腕をとり、ただえんえんと砂浜を歩いているというものだった。
夏の陽射しの照りつけるなか、ぼうぼうと耳鳴りのする海風が彼女の白いロングワンピースをまくしあげる。
すこし日に焼けた小麦色の僕のゆびと、夏に似合わない青っちろい彼女の細いゆびは交互に絡みあい、ときどき離れてはまた繋がった。
ねえ、
彼女はおでこに手のひらをひっつけて、屋根のような日よけを作りながら、すこしうえを向いた。
「なんで、ヒトのゆびって、五本なんだろうね。」
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