0人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも、お兄ちゃんたちが帰ってきたら、涼華のランドセル蹴飛ばしちゃうわよ。
踏むかもしれない。
涼華はそれでもいいのね?」
私は仕方なく、両親と一緒に寝起きしている部屋にランドセルを置きに行った。
「行ってきます!」
今度こそドアを開けて外に飛び出す。
「えっちゃんに迷惑かけちゃだめよ」というお母さんの言葉を背中に聞きながら。
五階までまた階段を一段飛ばし。
息を切らしてえっちゃんの家に着くと、私はいつも通りドアに向かって「えっちゃんあそぼ!」と大声で叫んだ。
えっちゃんの家の表札は銀色でつやつやした板だ。
亮兄ちゃんが図工で作った、接着剤がはみ出しているうちの表札とは大違い。
『片山』と彫られた文字をなぞっていると、えっちゃんが笑顔でドアを開けてくれた。
「涼ちゃん、ママが新しい人形とおうち買って来てくれたの。今日はそれで遊ぼうよ」
「新しい人形?えー、いいなぁ。かわいい?」
「かわいいよぉ。ほら。早く早く!」
えっちゃんが、靴を脱ぐ私の手をせっかちに引っ張る。
えっちゃんのスニーカーしかない玄関で、私は脱いだ靴を上品に揃えた。
えっちゃんがいつもそうしてるからだ。
五年生のえっちゃんの家に来ると、私はちょっと大人になった気分になる。
最初のコメントを投稿しよう!