第二夜

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悪いので、そこから車で帰ってもらおうとしたら「店長ひとり残して帰れませんよ」と言い張るので、他のバイト2人も引き連れてまたテクテクと京成線沿いの裏道を歩き、あっちへ曲がりこっちへ曲がりながらいつしか高台へ続く坂道に差し掛かり、その頂上の黒々とした森に囲まれた登戸神社という薄ら寂しい神社の境内に出た。「さっきは、この神社ありませんでしたよね」ニヒルなS君が怪しむように呟く。「いや、アパートはこの神社のすぐ先なんだ」と答えて、僕が先頭になって歩き出したのだが、不思議なことにアパートの建物が見えてくる気配はなく、いつの間にかまた千葉駅に逆戻りしてしまった。「もう、俺ひとりで帰れるから」そごうの赤と青のネオンに照らされながら僕が断ると、「こうなったら、意地でも送っていきます」とS君が言い張るので、また4人ゾロゾロと夜中の道を歩き出したのだが、途中の登戸神社までは行き着くものの、すぐ先にあるはずのアパートにどうしてもたどり着くことができず、ふと気づくと、別のルートから駅前の繁華街に戻って来ているのだった。見慣れたそごうのネオンに照らされた僕たち一行は、よたびアパートを目指した。さすがにS君を始めバイトたちも無言になり、重い足取りで歩くこと30分、高台の登戸神社で拍手を打ち「これでもう大丈夫」と、坂道を下り、真っ暗な林の中の道を15分ほど歩き続けたら、林の黒いこずえの上に、またしてもそごうの赤と青の看板が垣間見えたのだった。「……テンチョオ~、いい加減にしてください」その時点でやっと、僕が安アパートを見られるのが嫌でわざと道に迷っているのだと気づいたS君が、低い声で忠告してきたので、仕方なく「部屋に来たって、お茶も出せないぜ」と言いながら本当の道へいざない、ものの10分もしないうちにアパートにたどり着くことができた。
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