第一夜

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第五話 『鉄拳』 最後に、僕に起こった出来事。中学生の頃、隣町にハマの狂犬と呼ばれる超不良番長がいて、たった一人で遠征して来てはうちの町の不良を叩きのめし制圧していた。相手が気絶するまで殴り続けるというので、かなり恐れられていたのだが、ある日僕が自転車で走っていると、向こうから顔見知りの友人5人がやはり自転車で息せき切って走って来る。どうしたのかと聞くと、駅前でハマの狂犬を見つけ、相手が徒歩だったので、ついからかったのだという。ところがハマの狂犬は物凄いスピードで走って追いかけてきたので、懸命に逃げて来たのだと。見ると、50メートルほど後ろに、凶暴な顔をした大男が物凄い勢いで走って来る。「ウワ~ッ、来た。逃げろ~っ!」叫び声を上げて自転車を発進させる友人につられて、僕も逃げたのだが、不幸にも途中の坂道で自転車ごとこけてしまい、僕だけ友人たちから取り残されてしまった。見る見る追いついてきたハマの狂犬が、物凄い勢いで僕に向かってこぶしを振り上げた。100メートルほど離れた場所で、友人たちが助けに来ようともせずただ様子をうかがっている。「か、勘弁してください!」僕が思わず叫ぶと、ハマの狂犬は振り下ろした拳を僕の顔面スレスレにピタリと止め、「大声を出して、やられたふりをしろ」と囁くと、大袈裟な素振りで僕を殴る蹴るの真似をし、僕もそれに応じて「ウワ~」とか「痛い~」とか、叫び続けていたら、そのまま立ち去ってくれた。ホントはいい人だったのかも。と、いうより僕自身が殴る価値もない情けない奴だったのだろう。
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