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昨夜から街を濡らし始めた雨は、徐々に激しさを増し、視界を遮るように夕方には土砂降りになっていた。
街を覆う雨雲の空から舞い落ちた冷たい雫は街を凍えさせた。
交差点の角にある書店の前を傘をさし信号待ちしている人々が窓越しに視界に入っていた。『ニュースでやっていた天気予報もたまには当たるものね』と店員は苦笑した。
綺麗に梱包された本や雑誌を陳列棚に並べながらそう呟いた。
いつもと何ら変わりない日常なのだが、違っているとすれば、この気の滅入る雨の量くらいか。見ているだけでうんざりしていた。
「店長ぉ。雨酷くなってるみたいですよ」
書架の並ぶ棚の奥で紹介の為のポスターや、表紙の貼られたレジ台の席で、店長と呼ばれた人物は、白い髭を指で撫でると、声をかけた店員にニッコリと笑みをみせ、腰をトントンと叩き口を開いた。
「今日の雨は一段とこの老体にはこたえるわい」
まだまだやみそうにない雨をしばらくの間、眺めたあとお気に入りの古書を開き黙読し始めた。
店長の様子を見ていた店員も「今度その古書読ませて下さいね」と言ってまた陳列し始めるが、ふと窓の向こうの通りに視線やると、傘をささずに歩く青年に瞳を奪われた。
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