レイン

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 青年は女性のような細面をしていた。男性的な無骨さは無く、細い華奢な身体つきだった。この雨で濡れた長めの銀糸の髪は白い肌にぴたりと張りついている。  その女性的な顔立ちが冷たい表情と相まって、妖しい色気があった。 「綺麗な人ぉ。羨ましいな」         ◇  書店の前を歩きながら窓越しにこちらを見ている店員が視界に入るが、興味がないのか気にも止めずに通り過ぎていった。  信号待ちしている人々も、青年に視線をやるが、その人物は赤から青へと信号がかわると、再び歩き始め横断歩道を渡っていった。 すれ違う人波はその瞳に流れていく。  しばらくの間、歩きながら雨宿りできそうな場所を見つけると、その濡れたスーツの内ポケットからシガーケースを取り出し、煙草を口にくわえる。  ライターを取り出し先端に火をつけゆっくりと煙を吸い込む。その瞳には先ほどと同じく人波が流れていく。 (……奴はいったいどこに)  何かを探っているような素振りはみせずに、うっすらとたちのぼる煙ごしに人通りを伺うその瞳は殺気じみている。  その時、「ブゥーブゥー」という振動音とともに片方の内ポケットが揺れる。取り出した携帯をスライドさせると、薄照明の画面をしばらくじっと見つめ、その画面上に出ている文字に彼はため息を漏らし、ボタンを押す。  
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