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急いで後方へと後退した二名は、手の震えを必死にこらえマガジンを入れ替えトリガーを弾く。
二匹は銃弾を受けるが、お構いなしに肉塊へと変わり果てたエージェントを貪る。凄惨な光景は幾度も見てきたはずなのに、やはり目の前で起きている現実に、目を背けたくなるのは人間の心理だ。
その恐怖を更に増すかのように、また一つ階段から足音が鳴る。半獣人の魔族は扉の残骸の奥から近づいてくる足音に、尖った耳がピクリと反応する。
「おいおい、まさかまだ化け物がいるっていうんじゃないよな?隊長?」
一瞬、半獣人の反応を見ていた───いや、見ていることしか出来なかったマシューは、足音とエージェントの言葉に「まさかな……」と焦りを見せ冷たい汗が額をつたう。
だんだん近づいてくる足音は、マシュー達に恐怖感をあたえる。こんな状況でもう一匹いるなんて絶望的だと。
半獣人の魔族は威嚇するようにグルゥと鳴き、勢いよく扉の奥の闇へと疾走するが、奥の闇でゴォッという爆発音とともに異形の断末魔が響く。
すると、闇の向こう側から凄惨なこちら側へと招かれた者が闇に揺らめく。
「あんたは!?」
マシューは声を上げる。黒い影───この薄暗い空間でもひときわ輝きを放つ銀糸の髪の青年。左手には朱く揺らめくものがはっきりとわかった……彼だ。
「人間なんて喰っても腹壊すだけだぜ。もし喰いたりねえんなら、この紅い炎を灰になるまで味あわせてやるぜ」
青年は皮肉混じりの口調で、しかも余裕ののある口調で魔族に通告する。貪り続けていた魔族は鋭い視線でギロリと青年を睨みつけると、赤くドロドロした口を舐め、口を開いた。
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