Lilac

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波音に合わせてギターを弾いていた。 決まった曲があるわけではない。 ただの暇つぶし。 ふと考える。 俺にギターを教えたのは誰だったかと。 全くおぼえていない。 だが、弾き方だけは覚えている。 自分の中にも残っているものがあったんだ・・・。 「上手ですね」 サイコが着替えを手にして、扉の前に立っていた。 「そうでもないよ」 俺はギターを弾く手を止めた。 季節が巡っていた。 太陽の強い日差し。 楽しそうに飛ぶかもめの群れ。 空に浮かぶ入道雲。 暑いほどの風に、強くなった潮の香り。 「すっかり夏ですね」 サイコはベッドの上に着替えを置くと、ギターを受け取り、ギタースタンドに置いた。 着替えを手伝ってもらう。 サイコは丁寧に汗ばんだ俺の身体を拭く。 俺の体は前よりも白く、細くなっていた。
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