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病院に運ばれて治療を受けても母は目覚めなかった。
父は今回の件で私に性的虐待をしていたことが露見し、警察に逮捕された。
目覚めない母の横で絶望に打ちひしがれていた。
何もできなかった自分が許せなかった。
こんな私を守ろうとして母は…。
病院に毎日通った。
母は目覚めない。
だが、ある時気付いた。
母が懸命に息をしていることに。
静寂の中、母の静かな息遣いだけが聞こえてくる。
私はこのかすかな希望を捨てたくなかった。
それからは容易ではなかったが、懸命に勉強して医大に入った。
大学の実習で簡易血液検査をしたときに、私の中にいくつか免疫があることが分かった。
教授らはその免疫に興味を持ち、定期的に実験に協力することになった。
協力といっても私は検体。自分の血液や細胞を提供するだけだが。
学校を卒業したのち、私はこのホスピスに配属された。
激しい勤務の伴う救急の現場ではなく。
それは実験への影響を考えて教授たちが行ったことだった。
私が内部の人間であるたからなのか、副作用が出るか、出ないかの微妙な実験もされた。
度重なる実験で身体が悲鳴を上げることもあった。
腕には無数の注射痕。とても見れたものではない。
それでも
私はこの業界に居続けた。
母を救うため。
ひいてはたくさんの人を救うため。
だが、母を救うことはできなかった。
あれだけ頑張ったのに…
それなのに…
私に救える命などないのかも知れない…
悲しみの後、絶望が心を支配した。
いてもたってもいられないくらいの、どうしようもなくいたたまれない気持ちになった。
そんなときになぜか浮かんだのは、彼のこと。
死期の迫った彼が浮かぶなんてお門違いもいいところなのだろうが、彼は消えなかった。
どうしても会いたくて…
どうしても会いたくて…
こんな真夜中にやってきてしまったのだ。
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