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思えば今まで碌な人生を送ってこなかった。
生まれてすぐに独りになった。
事情はよく知らない。
だが、生まれて数日で児童養護施設に置き去りにされた。
それからは窮屈なくらい自由で、空しいくらい温かい施設で育った。
そんな施設が嫌いだった。
学校も嫌いだった。
蔑まれるのが厭だった。
同情されるのが厭だった。
特別扱いが厭だった。
そして中学卒業を待たずに今度は俺が施設も学校も置き去りにした。
男でも、女でも、まともな人間でも、そうでなくても、自分に近づいてきた人間は無条件に受け入れた。
学もない、金もない、家も帰る場所さえもない俺が生きながらえていくためにはそれしかなかった。
一人の人物に定まることはなかった。
誰かに必要とされることがただ重たかった。
俺には生きていくだけの食事と、金と、寝床だけしかいらなかったから。
この世に生を受けてから二十数年たつが、自分の中に残る人物はだれ一人としていない。
両手では足りない人間と出会い、身体を交わらせてきたのに、名前はおろか顔も、声も、香りも、ぬくもりも、何一つとして残っていない。
二十数年生きてきた。
でも、息をしていただけ。
ただ、ただ、息をしていただけ。
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