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次の日。
外はあいにくの雨だった。
熱はすっかり下がったが、しとしとと降る雨の湿気が自分の身体を静かに蝕んでいるような気がして、起き上がる気がおきなかった。
ノックの音が響き、「失礼します」という雨の日には不釣り合いな明るい声が響いた。
今日もサイコは八重歯をのぞかせて笑っていた。
「調子ははどうですか?」
サイコは俺のベッドに近づいて、額に手を当てる。
掌から伝わる温もりが変にくすぐったくて、妙に心地よかった。
「よかった、下がったみたい」
静かに離れた掌の温もりが切なかった。
「今日はあいにくの天気ですね。…あっ!」
のんびりとした声で窓の外を見つめていたサイコが突然声を上げ、あわててテラスに出て行くと、出しっぱなしになっているイーゼルと小さな椅子を素早く部屋に入れた。
「放っといてよかったのに…」
ホッとして息をつくサイコを横目に、俺はつぶやいた。
所詮暇つぶしの道具だ。濡れようが構うことはないのに…。
そのときだった。
サイコの表情が一瞬のうちに明るく変わった。
「声、初めて聞いた」
弾むようにサイコは言った。
別に俺の声を聞こうが聞くまいが関係ないじゃないか…
俺はきっととても複雑な顔をしていたんだろう。
サイコは噴き出した。
「変な顔」
そうやって屈託なく笑う、この女は調子が狂う。
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