Lilac

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「あの、あれ見ていいですか?」 サイコは窓際の棚を指差した。 棚の上にはスケッチブックと絵具などの画材が置いてあった。 「ああ」 短く、そっけなく返事をする。 どう接したらいいのかわからない。 サイコはスケッチブックをめくっていった。 「すごい…とっても素敵な絵」 部屋のテラスから見える代り映えのしないアングルの絵。 この海は穏やかで退屈だ。 どれも一緒なのに…。 それでもサイコの目は輝きを増すばかり。 「本当に素敵…。枚数を追うごとに海の青にどんどん深みが出てきてるみたい…」 サイコは静かにスケッチブックを閉じると元の場所に置いた。 「そういえば…」 サイコは俺に近づいて顔を覗き込んだ。 そしてその優しい指で俺の伸びた前髪に触れた。 「同じ色。奇麗な青ですよね」
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