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『海の色と一緒だなぁって思って…その眼の色がそのまま絵具の色に出ているような気がしたから…』
サイコの言葉が頭をめぐっていた。
サイコはどういうつもりで言ったのだろう?
いくら考えてもわからなかった。
ただ、サイコには何の悪意もなく、純粋な気持ちしかないことだけはわかった。
その夜、サイコは部屋に食事を届けにきた。
いつもとは違って表情は固く、戸惑いが感じられた。
ベッドについているテーブルの上におぼんを置くが、必要以上に慎重だ。
なるべく俺に近づかないように気を使っているのがばればれだった。
「…あの、これ、夕食です。では、私はこれで…」
ぎこちなく言うと、サイコは部屋を出て行こうとした。
「待てよ、俺また熱っぽいみたいでさ、食欲ないんだわ。悪いけど下げて…」
部屋を出て行こうとしたサイコの背中に話しかける。
「え!大丈夫ですか?わかりました」
サイコは俺のベッドに近づいておぼんに手をかける。
俺はその手をつかんだ。
「え!?」
サイコは驚きの声をあげて身体をこわばらせた。
「昼間はごめん。…なんか自分でうまくコントロールできなかったんだ…」
わからない。でも、次々に口から素直に言葉がこぼれだす。
「…頼むからふつうにしてて…」
「でも…触られたりするのお嫌いなんじゃ…?」
「…どうしたらいいかわからないだけ」
サイコは今まで出会ってきた人間たちとは違う。
俺は本能的にそれを感じていた。
彼女はやましい気持ちや、自分勝手な想いなどは持ち合わせていない。
確信、と言っていいほどの直感だった。
「なんかおかしいんだ、俺。初めて感じることばかりで、頭がついてってない…」
この感情に無理にでも理由をつけようとした。でもできなかった。
「私もどうしたらいいかわかりません。こんなの初めてです…」
サイコも戸惑いの色を濃くした。
「ふつうにしててって言ってるじゃん…」
「…ふつう…いつもどんな感じですか私って?」
真剣に悩んでいると思ったら気の抜けるような質問。
俺は思わず笑った。
それは今までの人生で初めての純粋な笑みだった。
「さあ、まだあんたと出会ったばかりでよくわかんないけど、きっと…いつもそんな感じなんじゃないかな」
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