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「君は僕に勝ったんだよ 僕が負けを認めたんだから。」
そう言って私を見るその瞳は、私を強く押さえ付ける
垂れ目で柔らかなその眼差し1つが、私を縛り付け動けなくした
何もされていないのに、ただ目を向けられただけなのに………ゾワッとした感覚に包まれて、反論がしたくても喉が強張り出来ない
静かな道場はヒメさんの言葉で少しざわめきを取り戻し、『あいつが負けたんだろ?』と会話が耳に入る
違う 違う
負けたのは私で。彼は手加減をしていて。
情けでも掛けられたのだろうか
でも
でも そんなの掛けられたって
「………………私は……!!…」
納得のいかない私が再び声をあげると、
「沖田 総司」
落ち着いた声がそれに重なるように道場に響く
見てみれば声の主はヒメさんで、興奮して力んでいる私と違い冷静にこちらを見ている
いつもそうだ
いつも私ばかりが必死で、彼は相手にしてくれない
それがやっぱり悔しくて、涙が頬を伝った。
「君も近藤勇に似て真っ直ぐだね。流石は新撰組一番隊隊長だよ」
ふわりと微笑む彼はまるで女の様に妖艶で、思わず目を奪われる
そして微笑んだままこちらに歩み寄ってきて、気付いたら目の前に立たれていた
私より背の低い彼を見下ろすと彼はより微笑みを深める。そんな彼の瞳を見て、何故だか身体が強張り声が出なくなった
「君 一番隊隊長なんだよ?そんな人に僕が勝てるわけがないじゃない。新撰組随一の君は、まさに無敵なんだから」
そう言われて 私は何も言い返せなかった
その綺麗な瞳から目が離せず、不思議な威圧感に興奮していた気持ちが落ち着いていく
紅月氷雨
彼との入隊試験は私にとって衝撃的で、あまり理解が出来なかった
私は手加減をされて理不尽に勝った事になり、ヒメさんに反論を制されている
『やはり私は どうしても彼に勝てない』
そう改めて感じた私は 可憐な彼を黙って見つめる
とてつもない敗北感を味わい力の抜けた私に、彼はただ微笑んでいた
「………………………」
きっと
この感情は生まれてはじめての挫折。
そう実感して、私はまた木刀を持つ手を握りしめた
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