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互いに簡単な自己紹介をし、少女はナギサ=ルシード、青年はダーク=ルベラと名乗った。
二人とも昼食はすでに終えたそうで、飲み物と少し摘まむためのサンドウィッチを注文したのだ。
冷えたハーブティーを口に含み、「何から話せばいいかしら」とナギサが口を開く。
「私とダーちゃんはね、ちょっと変態から逃げてたのよ」
「・・・・・・変態」
「俺のアニキなんだが、ナギサのストーカーだ」
「それは、また・・・・・・」
何ともいえずタヤクが黙る。
一方でミカノはそんなことに興味はない、とばかりにサラダサンドに手を伸ばし、
「で、その変態でもやっつければいいの?」
と、軽く言った。本気なのか冗談なのかわからない。
しかしその変態と言われる人物の弟であるダークもまたあっさりとしており、
「いや、アレはまた別に俺が処分するからいい」
と返した。空気を読むタヤクは何も突っ込まない。
「あぁもう、あいつの話は良いわよ。それで、逃げてる途中で女の人を助けたの」
「助けた、というと野盗とかから?」
「ううん。道端に倒れてたの。服はぼろぼろで裸足だったから足の裏も傷まみれだったわ。体にあった傷の方が酷かったけど」
「・・・・・・」
野盗に身ぐるみを剥がされたのか、それとも人攫いにでもあって逃げ出したのか。
タヤクはそんなことを考えながら話の先を促す。
「とりあえず簡単に治癒術をかけて、ダーちゃんにこの村まで背負ってきてもらって。そしたら村の人がその女の人を知っててね」
「それなら万々歳じゃない」
たしかに。
ミカノの言う通りなら女の人は無事に故郷へ帰ってこられたのだ。怪我はあったというが、生きて帰ってこれただけましというものである。
けれどもナギサはミカノの言葉に眉を跳ねあげ、バンッ!とテーブルを叩いて立ち上がった。
衝撃で四人のカップがかしゃりと音を立て、タヤクのアイスコーヒーは少し零れる。
「おい、ナギサ」
「他にも何人かこの村から浚われたそうよ?! 村長に聞いたら数日前から近くの山に野盗が住み着いて、金品を奪うか女の人を連れ去るかしてるって!」
「はぁ」
「ここは辺境ともいえる場所にある村だから、この辺りを治める領主に討伐隊を陳情したが一向に来ないらしい」
「まったく! 上に立つ者が領民を守れないとかどういう国よ!」
わなわなとナギサの手が怒りに震える。握られたたまごサンドは無残にも潰れてしまった。
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