キリ番:100:聖架さんへ

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少女の物言いは村民の側に立ってのもの、というよりも、“自分と同じ立場にいるお偉いさんが動かない”ことに憤っているようにも感じられた。 たしかに、口調こそ些か乱暴ではあるが、ナギサの立ち居振る舞いは以外にもきちんとしている。 いきなりテーブルを叩くなどは例外だが、ティーカップ一つ口元へ運ぶにしてもその動作は美しい。 意外に何処かの貴族令嬢なのかな、とタヤクはぼんやり考える。 そうすると青年は彼女の護衛か何かなのだろう。 「それで、お前さんはどうしたいんだ?」 タヤクの声掛けに、待ってましたとばかりにナギサが笑う。 口元をほんの少し持ち上げただけの、にやりとした笑みだった。 「その野盗を壊滅させるのよ」 「・・・・・・お嬢さんがか?」 「お嬢さん、って同い年くらいじゃないの私たち。それに、私も一応剣はそれなりに扱えるんだからね」 見れば、確かにナギサの腰元には一振りの剣が鞘に収まっている。 野盗除けとして飾りで持ち歩く者もいるが、ナギサの場合は実際に抜くようだ。 「それなり、っていうか・・・・・・」 複雑そうに呟くダークの腰にも二丁の拳銃がぶら下がっている。 こちらは見た目からして使い込まれているようで、様々な傷が刻まれていた。 ――剣術を扱うお転婆な令嬢と、それに振り回される護衛青年か 本当に、自分たちとよく似ているな、と思う。 ミカノは令嬢なんかではないが、彼女の破天荒さにはタヤクも散々振り回されているのだ。 一番たちが悪いのは、それをも楽しんでしまう自身の性格だろうか。 「ほんとは私とダーちゃんだけで良かったんだけど、ダーちゃんが駄目だっていうから人を探していたの」 「相手が何人いるかわからないからな。それに、浚われた人たちが生きているなら、人質にされる恐れもある」 ナギサの方が正義感が強いが、ダークの方が理性的らしい。 実際にタヤクが彼の立場だったとしても同じことを言うだろう。 ただ、ナギサは大人しく聞いたようだが、ミカノはきっと聞きもしない。タヤクを引きずってでも行こうとするのが目に浮かぶようであった。
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