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涙星~Thought of letter
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三回忌を迎えた朝、私はいつものように仏壇に手を合わせて壁に掛けてある遺影に微笑んだ。
「ケンちゃん、いつもケンちゃんの顔を見る度に、最後の最後に約束を破ったんだねって、寂しくなるんだよ? あの時に交わした約束……、キョトンとしたケンちゃんの顔が今でも忘れられないよ」
この歳になってケンちゃんなんて可笑しいと、自分でも照れ笑いをしながら遺影に呟いていた。
私はもう今年の冬で六十七歳になる。
ケンちゃんと連れ添って四十年、その年の春にケンちゃんは突然の心筋梗塞により逝ってしまった。
こうやって毎日ケンちゃんの遺影に話しかけては、ケンちゃんと出会い、そして不運が重なってケンちゃんとの連絡手段が途絶えた時の、あの苦しいまでの不安だったあの日の出来事がいつも頭の中に現れては、息苦しくなる。
それほどあの日の出来事は私の中で、絶望に値するくらいに不安という大波に押し潰されていたんだ。
今でこそ、通信の発達によって、携帯電話やパソコンが当たり前のようにある。
携帯電話で自分や相手の居場所も判るというのだから、あの時私が不安で苦しんだことが馬鹿馬鹿しくさえ思えたりもして、その度にクスりと笑みを浮かべてしまう時もある。
「ケンちゃん……、あの時の苦しい不安を全て消してくれたのは、ケンちゃんだった……。そして私は毎日ケンちゃんの愛情に包まれて、一日たりとも幸せを忘れたことなどなかった。でも、最後の最後に約束を破ったから……、ケンちゃんのバカ!って、叫びたくなるんだよ」
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