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「ふふ。」
清水の舞台の手すりにもたれる女が一人。
平日の夕暮れということもあって人はまばらだ。
「いつみてもいいわ。ここからの夕焼け。」
つい独り言をつぶやく。
~♪~♪
と、彼女の黄昏を邪魔する機械音。
それまでうっとりとしていた彼女はその音によって現実に引き戻され、眉間にしわを寄せる。
そして鞄からその音の元凶をとりだすと、ボタンを一つ押し、もう一つボタンを押す。
静かになった機械を見てにっこりほほ笑むとそれをパンツのポケットに入れてまた舞台の手すりにもたれて黄昏る。
ブーブーブー
「……。」
さっきの機械音から数十秒もしないうちに、先ほどポケットに入れたモノが震える。
音が鳴らないのはマナーモードにしたからだ。
「……はぁ。」
小さくため息をついた後、彼女は長く黒い髪をかき上げる。
それは夕日と重なって、思わず息を止めるほどの妖艶さだった。
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